Collegium はラテン語で同業者、同胞を意味する。 16〜18世紀にかけてドイツを中心にヨーロッパ各地で、コレギウム・ムジクムと呼ばれる音楽同業者組合や音楽愛好団体が存在してきた。 最も有名な例の一つは、ライプツィヒ大学法学部で学んでいたテレマンが1702年に設立したコレギウム・ムジクムである。 この団体には、学生が演者として参加していた。 バッハは後に、この楽団を引き継ぎ、コーヒーハウスの庭などで公開演奏会を催した。 《コーヒー・カンタータ》 (BWV 211) やチェンバロ協奏曲 ニ短調 (BWV 1052) などが、このようなコンサートで演奏されたことが分かっている。
「コレギウム・ムジクム」という名称は、19世紀に入るとあまり使われなくなってしまう。 しかし20世紀を迎える頃になると、音楽学者らによって、古い音楽の復興を表すことを目的として、再び使用されることとなる。 フーゴー・リーマンのライプツィヒ大学の、そしてヴィリバルト・グルリットのフライブルク大学の団体が例としてよく知られている。 こうした大学におけるコレギウム・ムジクムの設立の動きはやがて、ドイツをはじめ、イギリス、オランダ、スイス、アメリカなどに拡がり、 ウィリ・アーペルがハーバード大学で、そしてパウル・ヒンデミットがイェール大学でコレギウム・ムジクムを指導した。
慶應義塾コレギウム・ムジクムは2001年度、日吉キャンパスにおける総合教育科目である「音楽(合唱音楽とその歴史)」の一環として創始された。 2002年度には、経済学部助教授(当時)石井明が担当する「音楽」の授業として、18世紀の演奏習慣を取り入れたモダン・オーケストラの授業が開講された。 古楽器を用いた演奏実践の授業(慶應義塾大学古楽アカデミー)は、2010年度に文部科学省の「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」の一環として開始された。 これは2012年度より、この年度より開設された小編成による合唱のクラスとともに、教養研究センター設置住友生命保険相互会社寄附講座「身体知・音楽I/II」として正規授業化された。 その後古楽器と合唱の授業は、2018年度より株式会社白寿生科学研究所の寄附講座となり現在に至っている。
コレギウム・ムジクムはさらに、オペラ・プロジェクトを3年に一度のペースで行ってきている。 これまで、モーツァルトの《コジ・ファン・トゥッテ》(2013年度)、《ドン・ジョヴァンニ》(2016年度)、そして《フィガロの結婚》(2019年度)を、 オーケストラ伴奏を付きのフルステージのオペラとして全幕上演している。